春だった

春。わたしにはいまいちそれがわからなかった。これだけ春夏秋冬がはっきりした国に住んでいても夏は暑くて冬は寒いこと以外に無関心でいた。でも、今日お昼頃に散歩してはじめて春をしっかりと感じた気がする。春だった。そうとしか言えない感覚で外はいっぱいだった。

四季に無関心だとは書いたけど、東京に住んでから4月頃は浮かれたキラキラ学生が駅に増えて「春のバカヤロー」と嫌な気持ちで春を感じることだけはあった。そこに関してだけは人一倍敏感だった。嫉妬と憎悪の権化の悲しき性…。だからこそ今日はじめて春を良い気持ちで感じることができたのがうれしかった。

とにかくいろんな花が美しく咲いていた。桜は知らない間に葉桜になって散っていた。ひらひら落ちてくる花びらの中を歩くのはなんとも言えない喜びだった。てんとう虫がいた。足を必死に動かしていた。わたしはてんとう虫が好きなのでうれしかった。すれ違う人はみんなゆったりしていた。いつものようないじわるな人たちとは出会わなかった。それも無性にうれしかった。水道のホースが不思議な曲線を描いているのを度々見つけた。それだけでうれしい。道に立つ看板ひとつひとつにグラフィティーが施されていた。どんな美術館よりも最高に楽しかった。

楽しかった。うれしかった。良い気分だ。きっと明日には消えるかもしれない気持ち。それどころか今この瞬間にも失ってしまうかもしれない気持ち。それが少し怖い。だから日記を書く。辛くなった自分が読めるように。これからどんな感情を抱いたとしても、今日のあたたかい穏やかな時のことを忘れないでほしい。